おお、トップバッターはわしか。わしはエピソードが多いで、少し話を絞って語らにゃならんのう。よしよし、このへんでどうかの、では聞いてもらおうか。 わしが生まれたのは天文中盤のころじゃった。わしの幼いときはな、今になって思うと、とんでもない扱いを受けておったんじゃなあ。銭で売られたなんて誰にも言えやせんぞ。あっちへ行ったり、こっちへ行ったりと、肩身の狭かった思いしか覚えてはおらんのう。 でも、そんなわしにもようやく天の時が訪れたのじゃ。わしは御屋形様の先鋒を務めて出陣したのじゃが、よもや負けるとは思わんかった御屋形様が、一瞬の油断を衝かれて小勢の敵に首を取られてしもうての。ま、天気も悪く大雨が降っていたとはいえ、やはり本陣に突っ込まれるとは油断以外の何ものもなかろうて。 御屋形様は少し肥満気味での、敵兵の指を食いちぎっただけで討たれたそうな。あれじゃ左文字の名刀が泣くわな・・・。で、御屋形様を討ち取った人物じゃが、後にわしと仲良うなるんじゃが、この人物、冷酷無比と言われる割には、わしにはようしてくれたのが今更ながら不思議じゃ。ウマが合うたとでも言うのかのう。 そうそう、この人物が彼の妹婿と戦ったときのことじゃった。最初はえろう苦戦での、十三段の備えをあと二段というところまで攻め破られてしもうてな。そのとき、わしが横手から攻め掛けておらなんだら、ありゃ負けておったじゃろう。いやはや、あれはうちの小平太や借り受けた似斎殿がよく頑張ってくれたお陰じゃわい。 ただ、この人物の奇禍の際にはさすがのわしもあせったもんじゃ。何せ軍勢も引き連れず上方で遊んでおったでな。苦労して国元には帰り着いたのじゃが、あの時は一時真剣に腹を切ろうとも思ったでな。鍋らに説得されて思いとどまったんじゃが、国元に帰って軍勢を整えておった隙に、まんまと出し抜かれてしもうたわ。 そのわしを出し抜いた者とは暫く戦ったのう。ただ、わしは負けはせなんだが、やはり時流には勝てんでの。わしに押しつけ結婚までさせて機嫌を取っておったかの者のを見ておると、しばらくは長い物には巻かれるのもよいかと思うて、膝を屈したのじゃよ。ま、あとは歴史の通り、少々待ちはしたが、結局は思惑通りになったのじゃが。 ずっと後のことじゃが、その者も逝き、彼の子と戦ったときにはちと肝を冷やしたぞな。配下にやたらと戦の上手い武将がおっての。こやつの親父にはわしも息子も煮え湯を飲まされておるのじゃが、さすがに血は争えんのう。本陣にまで赤一色の騎馬隊で突っ込んで来おってな、うちの家臣の腰抜けどもが皆逃げ散りおったおかげで、あわや腹を切る羽目になるところじゃった。 そやつはわしの孫の配下に首を取られたんじゃが、いやはや遺髪一筋にいたるまで取り合いになってのう。敵とは言え、見上げた奮戦じゃった。まさに武将たる者の鏡じゃな、わしにすればにっくきやつじゃが。 ん? もう終わりじゃと? まだ話は終わっとりゃせんが。でも入門編じゃから最後に大きなヒントじゃ。わしの生まれは三河岡崎じゃよ。ではまたな。 |
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