おお、やっとわしの番か。わしも有名な大大名じゃったが、その割には世間ではあまり取り沙汰されておらんのう。まあ、北には積雪をも屁とも思わず出陣してくるとてつもない戦好きがおったし、西にはこれまた有名な騎馬隊を揃えたしぶとい強者がおったからのう。それはさておき、よろしくお付き合い下され。 わしはさる大名家の三代目じゃ。ん?これだけでもうわかるってか? 話は最後まで聞くもんじゃよ。ここは入門編ということで、管理者殿からも易しいヒントでと頼まれておるでのう。もうひとつおまけじゃ。わしの額には大きな刀傷が二箇所あってのう、世間ではこの向こう傷をわしの名を取って「○○傷」とか呼んでおるそうな。それはともかく、わしにもたくさんのエピソードがあるんじゃが、そのうち有名なものをいくつかお聞かせしようかい。 あれはわしがまだ十二歳の時じゃったが、そのころ当家にも鉄炮が伝わってのう。初めて聞く鉄炮の音にびっくりしたところ、皆が蔭でコソコソ笑いおっての。わしはあまりにも恥ずかしゅうて小刀で自刃しようとしたら、驚いた侍臣に刀を取り上げられてのう。思わず悔し泣きしたぞよ。わしの五十七年の生涯でも、悔し泣きしたのはこの時くらいのものだったかもしれんわい。で、入門編ということで、次の話はとっておきの有名なエピソードじゃ。 ある日の食事時のこと、わしの長男坊が飯に二度汁をかけて食っておるのを見て、思わず落涙したことがあったんじゃ。なぜかって?それはな、飯は身分の上下に関係なく、誰でも日に二度は食うじゃろう?今では三食とおやつが普通かもしれんが、当時は二食が普通じゃったからの。ま、それはよい。つまり人たる者、飯に関しては日に二度の鍛練を積んでおる。よほどの阿呆でない限り、飯にかける汁の分量などわかるはずじゃろう?それを一度かけて足らないからとまた汁を継ぎ足すような迂闊なことでは、人の本質など見抜けるはずがないわさ。つまり、彼の周りには良い人物は集まらんということじゃな。 有能な人材が集まらなければ、まず戦国時代を生き延びることなぞ出来はせんわい。だから思わず当家もわし一代で滅亡じゃと口走ってしもうたのじゃが、案の定、長男坊は醒めた顔をしておったのう。もう少し真剣に話を聞いておれば、わしの歿後わずか十九年で家を滅ぼすこともなかったろうに。 武勇伝もたくさんあるぞよ。代表的なものは天文十五年の例の夜戦じゃわい。これは救援戦だったのじゃが、謀略を用いて十倍近い敵軍を蹴散らしての、実に気分がよかったぞな。まあ、これに限らず、誰でも知っておる戦国の二巨星を相手に見事立ち回ったのじゃから、わしももう少し評価されても良いと思うがなあ。やっぱり華々しさに欠けておったのかもしれんのう。 え、もう終われと。ではちょっとしたヒントじゃ。わしのじじ様が「本編その3」に出ておるので参考にしてくれい。ではまたの。 |
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