島津日新斎「いろは歌四十七首」
その1(い〜う)

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いろは歌・い [い]
いにしへの
道を聞きても
唱へても
わが行ひに
せずばかひなし
いろは歌・ろ [ろ]
楼の上も
はにふの小屋も
住む人の
心にこそは
たかきいやしき
いろは歌・は [は]
はかなくも
明日の命を
頼むかな
今日も今日もと
学びをばせぞ
いろは歌・に [に]
似たるこそ
友としよけれ
交らば
われにます人
おとなしき人
いろは歌・ほ [ほ]
ほとけ神
他にましまさず
人よりも
こころに恥ぢよ
天地よく知る
いろは歌・へ [へ]
下手ぞとて
我とゆるすな
稽古だに
つもらばちりも
山とことの葉
いろは歌・と [と]
科ありて
人を斬るとも
軽くすな
いかす刀も
ただ一つなり
いろは歌・ち [ち]
智恵能は
身につきぬれど
荷にならず
人はおもんじ
はづるものなり
いろは歌・り [り]
理も法も
立たぬ世ぞとて
ひきやすき
心の駒の
行くにまかすな
いろは歌・ぬ [ぬ]
ぬす人は
余所より入ると
思うかや
耳目の門に
戸ざしよくせよ
いろは歌・る [る]
流通すと
貴人や君が
物語り
はじめて聞ける
顔もちぞよき
いろは歌・を [を]
小車の
わが悪業に
ひかれてや
つとむる道を
うしと見るらん
いろは歌・わ [わ]
私を
捨てて君にし
向はねば
うらみも起こり
述懐もあり
いろは歌・か [か]
学文は
あしたの潮の
ひるまにも
なみのよるこそ
なほ静かなれ
いろは歌・よ [よ]
善きあしき
人の上にて
身を磨け
友はかがみと
なるものぞかし
いろは歌・た [た]
種子となる
心の水に
まかせずば
道より外に
名も流れまじ
いろは歌・れ [れ]
礼するは
人にするかは
人をまた
さぐるは人を
さぐるものかは
いろは歌・そ [そ]
そしるにも
ふたつあるべし
大方は
主人のために
なるものと知れ
いろは歌・つ [つ]
つらしとて
恨みかへすな
我れ人に
報ひ報ひて
はてしなき世ぞ
いろは歌・ね [ね]
ねがはずば
隔てもあらじ
いつはりの
世にまことある
伊勢の神垣
いろは歌・な [な]
名を今に
残しおきける
人も人
心も心
何かおとらん
いろは歌・ら [ら]
楽も苦も
時すぎぬれば
跡もなし
世に残る名を
ただ思ふべし
いろは歌・む [む]
昔より
道ならずして
おごる身の
天のせめにし
あはざるはなし
いろは歌・う [う]
憂かりける
今の世こそは
先の世と
おもへばいまぞ
後の世ならん

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